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3.モルヒネの全身、局所作用
呼吸困難感が起こるメカニズムとして、呼吸を妨げる異常のメッセージが(図4)肺内の気管支−伸展感受性受容体および肺胞−水分感受性J−受容体を介して、また動脈血中の主に酸素分圧を感知した末梢化学受容体を介して、脳神経を伝わり延髄に届き呼吸中枢で呼吸ドライブ刺激が行われる。さらに上位の大脳辺縁系および大脳皮質に投射されて意識にのぼる自覚的な呼吸困難感として感じる。

 

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図4 呼吸困難感をとるには

 

この呼吸困難感に対して、全身投与されたモルヒネは脳のオピオイドレセプターにより大脳脳幹路で恐怖、不快のセデーションが行われる。また視床下部の自律神経中枢で交感神経系の緊張をとる。中脳下位には、中心灰白質からさらに緩和が行われ、最終的に延髄呼吸中枢でさまざまな呼吸ドライブの抑制が行われる。この延髄での二酸化炭素分圧感受性の低下による高炭酸ガス血症ドライブの抑制が、呼吸困難に対するオピオイドの最も大きな働きであると考えられている。
こうして、たとえ気道、肺胞、呼吸筋から二酸化炭索が溜まり呼吸を増やすべきという上行性のメッセージがきても、中枢での認知が低下し反応しない。二酸化炭素分圧のホメオスタテックレベルが変わり、異常呼吸感がシフトする。シフトのために高い値の二酸化炭素分圧の呼吸では一回の呼吸において、より多い二酸化炭素を排泄するようになる。臨界域にくると息切れを感じなくなる。
Oxfordの緩和医学の教科書によると呼吸困難治療薬剤の原則として、悪性の慢性閉塞性疾患に対しては呼吸セデーション薬が、癌性リンパ管症でもコルチコステロイドと呼吸セデーション薬が主体である。悪性の複合した病像に積極的薬剤や酸素の効果は限界がある。呼吸セデーション薬のうちでオピオイドと非オピオイドを比べると、脳のセデーション、不安の減少、高二酸化炭素感受性の低下よりも、心機能の改善、吸入効果(気道のオピオイドレセプターが働く)、鎮痛効果の3つがオピオイドの特異的作用であると述べている。
そこで今回モルヒネの全身投与に加えて、吸入効果を求めて試用した。3症例においてすでに100〜200mgのモルヒネが全身投与され、前述のような全身作用によってある程度の呼吸困難感の緩和が行われていた。そこにさらに5〜10mgの少量のモルヒネ吸入を行うと、効果が素早くかつ数十分から数時間続く全身投与と同様の効果が見られた。この反応の機序として全身投与とは別の経路、つまり気道、肺胞レベルでのオピオイドレセプターを介して中枢にいく直接の経路が推測された。
このピュタテブレセプターは見つかっていないが、示唆する生理学的な報告は見られる。ラットにおいてモルヒネ様活性、およびモルヒネ拮抗薬の抑制からの回復を見ると、肺は5臓器のうち最も多いがその次に多い分布を示した。つまり肺臓にも下垂体、脳脊髄液、小腸、血液等と同様に、オピオイド様物質が存在する可能性がある。またラットの右房にエンケファリナマイドを注入すると素早く無呼吸になり除脈、低血圧になる。モルヒネでの同様の結果も報告されている。これはオピオイドが肺内の肺胞−水分感受性、迷走神経性のJ−受容体を刺激して起こった症状と考えられ

 

 

 

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